4月23日で税理士登録をして丸16年が経ちます。
26歳の青年税理士は、すっかりオジサンになってしまいました。
青年の時分から大好きなクライアントに支えられ、力になりたい!と仕事をしていました。
1年間で所定労働時間の2年分働いたと思ったため、税理士登録の要件である「2年間の実務経験」を1年間で満たしているのではないかと、税理士会に問い合わせたのが25歳の春でした。(もちろん却下されました)
経験がモノを言う税理士という仕事はまだまだ奥が深く、精進しなければと気持ちを引き締める次第です。
さて、最近は、「生成AIで変わる税理士業務」、「生成AIを使いこなせないと生き残れない」
というメッセージを頻繁に目にするようになりました。
クライアントからも、「ChatGPTが○○と言っているのですが、弊社のケースは問題になりませんか?」という問い合わせが多くなってきました。
先日税務調査を受けたときのことです。ある業務委託に係る報酬が源泉所得税の源泉徴収義務の対象になるか?ということが論点として持ち上がりました。クライアントの社長さんは、生成AIに質問を投げかけました。生成AIは「○○に関するアドバイス業務などであれば、**源泉徴収税率10.21%(所得税+復興特別所得税)**を報酬から差し引く必要があります。」と教えてくれたそうです。この回答を受けて、その社長さんは、「仕方ないですねぇ。」と納得された様子でした。しかし、私はこれに反論する論拠を持っていたため、私に任せて欲しいと説得しました。
生成AIの回答は、Web上にある解説などを引用したものと思われ、この回答を瞬時に生成している点に感心しましたし、回答は正しいものでした。しかし、事実の認定→法令の規範や通達の規定→あてはめ→結論という思考過程の中では、
① 税法の観点から事実をどのように観察し、認定するかという感性
② ①の前提として、税法の予定する世界を体系的に理解する網羅性
が求められ、今回の事例では、まだ私の経験値と思考力がAIを上回ったようでした。
AI vs 人間を仕事の世界で観察した時に、人間に勝機があるのは、「前例のない事項への判断」、「プロデュースやディレクション」、「緊急対応」、「カスタマイズ」、「心に寄り添う」という観点ではないかと考えています。
これは、以前にもご紹介したオックスフォード大のM.オズボーン先生の「雇用の未来」という論文で示されたコンピュータに代替される可能性の低い職業リストからの私のインサイトです。
このように列挙してみると、そもそもこれらの観点は中小企業の経営参謀たる税理士の本領なのではないかと思うのです。
生成AIが影響力を持つと、それが一定の答えとなります。ある種の納得感に思考が停止することは恐ろしいことです。税理士としての本領を発揮するために自らを戒め、メンバーを鼓舞するにはどうしたらよいか?それはクライアントのために力になりたい!という青年のような情熱ではないでしょうか。
・・・と込み上げる熱い想いをなだめるかのように、街路樹のハナミズキが「力を抜きな」とヒラヒラ揺れています。
(文責:星川 望)