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更新日:2026年08月25日
複数の店舗を運営していると、給与計算は「人数×手間」では済まなくなります。店舗ごとに締めのタイミングがずれ、シフトは動き、店舗をまたいだ応援が発生し、明細は本社から配れない。従業員数はそれほど多くないのに、なぜか毎月が不釣り合いに重い——多店舗展開企業の給与計算には、この業態特有の構造があります。
この記事では、多店舗展開企業が給与計算を外部に委託する際に、何が引っかかりやすく、どこまで外に出せるのかを実務の目線で整理します。HOPグループが実際に対応した飲食チェーンの事例も交えて解説します。
※本記事は法人(従業員20名以上を目安)を対象としています。個人の給与に関するご相談は対象外です。
目次
同じ従業員30名でも、1拠点のオフィスと5店舗の飲食チェーンでは、給与計算の負荷がまったく違います。理由は主に3つです。
各店舗の店長が勤怠を確定させないと計算に着手できません。1店舗でも提出が遅れれば全体が止まります。人数ではなく「確認先の数」が工数を決めるため、店舗が増えるほど締め作業が積み上がります。
代表的なのが、人手が足りない店舗へ応援に入ったときのヘルプ手当です。ほかにも、シフト区分ごとに時給を細かく分けていたり、店舗限定の役職手当を設けていたりと、現場で生まれた例外が長年のうちに積み重なります。これらは就業規則に明文化されていないことも多く、担当者の頭の中にしか残っていません。
本社と店舗が離れているため、紙の明細を配布するにはシフトに合わせて店舗を回るか、店長経由で渡すしかありません。渡し漏れや紛失が起きやすく、印刷・封入のコストも毎月かかり続けます。
都内で飲食店を多店舗展開する会社からご相談をいただいたときのことです。従業員は正社員とアルバイトを合わせて30名。創業以来、社長ご本人が給与計算ソフトを操作し、明細書の印刷と封入まで行い、さらに各店舗を回って手渡ししていました。
店舗運営が終わった深夜に計算作業を行うため、精神的な負担が大きい。明細の配布もシフトが合わず滞りがち。「ミスが許されないプレッシャーから解放されたい」「本来の経営業務に集中したい」というのが本音でした。
ヒアリングを進めて分かったのは、社長がこの業務に毎月まる3日間を費やしていたことです。単価の高い社長の時間がノンコア業務に消えているのは、会社にとって大きな機会損失です。紙の配布もコスト増だけでなく、紛失や誤配のリスクを常に抱えていました。
対応したのは次の2点です。
給与計算のフルアウトソーシング 社長の作業を「勤怠データの送信」と「最終承認」だけに圧縮しました。店舗間のヘルプ手当のような複雑な独自ルールはHOP側でマニュアル化し、法改正への対応も引き受けています。
給与明細システムの導入 計算が確定すると同時に、従業員のスマートフォンへ明細が自動配信されるようにしました。印刷・封入・配送の工程を完全に撤廃しています。
結果として、社長の作業時間は月3日から、確認作業の約1時間へ。月24時間の工数削減です。空いた時間は新メニューの開発やスタッフ面談など、売上に直結する業務に充てられるようになりました。紙のコストと誤配リスクも同時に解消しています。
従業員からは「スマホで過去の明細も見られて便利」という声が上がりました。会社側の効率化だけでなく、現場にとっても使いやすい形に変わったことになります。
多店舗展開の会社から最もよくいただくのが、この懸念です。結論から言うと、独自ルールが多いことは外注できない理由になりません。
上の事例でも、店舗間のヘルプ手当という多店舗特有のルールを、こちらでマニュアル化したうえで運用に組み込んでいます。むしろ、独自ルールが担当者の頭の中にしかない状態のほうが、会社にとって危険です。その人が辞めた瞬間、誰も計算できなくなります。
もう一つ、外注をためらう理由として非常に多いのが「自社でデータをきれいに整理してからじゃないと依頼できない」という思い込みです。前任者が作った中身のよく分からないExcelのマクロが動いている、といったグチャグチャな状態のままでも、まずは依頼していただかないと永遠に移行できません。
整理する作業そのものを外注先が引き受けられるかどうかを、依頼先選びの基準にしてください。
なお、私たちは現状の運用をそのまま引き写すわけではありません。長年の運用の中には、割増賃金の計算方法や賃金からの控除の扱いなど、法令に照らして見直しが必要なものが含まれていることがあります。そうした点が見つかった場合は、そのまま引き継ぐのではなく、移行のタイミングで是正をご提案します。給与計算の外注は、現場の運用を法令に沿った形に整え直す機会でもあります。
明確な人数の線引きはありませんが、実務上は次のいずれかに当てはまったら検討のタイミングです。
特に4つ目は要注意です。従業員数が増えた段階で経営者が給与計算を抱え続けることは、単なる忙しさの問題ではなく、会社の成長スピードを阻害する要因になります。
なお、担当者が突然退職して駆け込みでご相談をいただくケースも少なくありません。社長が急遽バトンタッチしたものの、計算ロジックがブラックボックス化していて手が出せない、という属人化の限界から生じる相談です。この状態になってからでは選択肢が狭まるため、余裕のあるうちに検討を始めることをおすすめします。
「丸投げ」といっても、会社側の作業がゼロになるわけではありません。運用を始める前に、依頼する側と受ける側の作業を明確に区分しておくことが重要です。
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|---|---|---|
| 会社側にお願いする作業 | 委託先が巻き取る作業 | |
| 勤怠 | 各店舗の勤怠を締めて確定させる | 勤怠データの取り込み・集計 |
| 人員情報 | 入退職者の情報を回収して共有する | 社会保険・雇用保険の手続き |
| 計算 | ― | 支給・控除の計算、独自ルールの適用 |
| ルール整備 | ― | 計算ロジックの標準化・マニュアル化 |
| 明細 | ― | 明細の作成・配信 |
| 法改正 | ― | 改正内容の反映 |
| 最終確認 | 内容の承認 | ― |
HOPの場合、まず給与計算業務の標準化を行い、この区分を明確にしたうえで運用を開始します。ここを曖昧にしたまま始めると、結局「誰がやるのか分からない作業」が会社側に残り、外注した実感が薄くなります。
運用開始後は複数人体制のチームで対応するため、担当者の不在や退職によって給与計算が止まるリスクもなくなります。多店舗展開の会社にとっては、本社側の担当者が1人でも欠けたら止まる、という構造そのものを解消できる点が実質的な価値になります。
多店舗展開の会社では、給与計算の外注と明細の電子化はセットで考えたほうが効果が出ます。
計算だけを外に出しても、明細が紙のままだと「本社に届いた明細を店舗ごとに仕分けして配る」という工程が残ります。ここが残っている限り、シフトの合わない従業員への渡し漏れも、印刷・封入のコストも消えません。
電子化すると、計算が確定した時点で各自のスマートフォンに配信されるため、この工程自体がなくなります。従業員側も、過去の明細をいつでも自分で確認できるようになるため、「昨年分の明細がほしい」という問い合わせへの対応も減ります。
一点、押さえておくべき手続きがあります。給与明細の交付は所得税法第231条で義務づけられており、書面での交付が原則です。これを電子的な方法に代えるには、従業員本人の承諾を事前に得る必要があります(同条第2項)。
実務上のポイントは3つです。
アルバイトの比率が高く、入れ替わりも多い多店舗業態では、この承諾取得が意外と手間になります。入社手続きのフローに承諾の取得を組み込んでおくと、後追いで集める負担がなくなります。委託先を選ぶ際は、この設計まで一緒に考えてもらえるかを確認しておくとよいでしょう。
事前準備は「今のありのままを出す覚悟」だけで十分です。データをきれいに整える必要はありません。
就業規則や雇用契約書、過去の賃金台帳、手書きのメモなど、今あるものをそのまま全部お見せください。店舗ごとに運用がばらついていても構いません。そのばらつきを整理することも含めて、こちらで伴走します。
唯一お願いしたいのは、社内の窓口担当者を1名決めていただくことです。多店舗展開の会社では、店舗ごとに連絡先が分かれていると確認のたびに時間がかかります。本社側で窓口が1つ決まっていれば、あとは確実に前に進みます。
一般的な選定基準に加えて、多店舗ならではの確認ポイントがあります。
「就業規則どおりの計算しかできません」という委託先だと、現場で運用されている手当をどう扱うかで最初から詰まります。現状のルールを聞き取ってマニュアル化するところまで対応できるかを確認してください。
店舗数が多いほど、勤怠データを手作業で受け渡す方式は破綻します。使用中の勤怠システムからデータを取り込めるか、対応できないなら代替案があるかを聞いておきましょう。
店舗ごとの人件費を把握したい、グループ本社へ月次で報告する必要がある、といった要件がある場合は、必要な形で数字を出力できるかを事前に伝えてください。標準の出力様式が自社の必要な形と合っていないだけで、毎月の手作業が発生し続けているケースがあります。
担当者1名で受けている場合、その方の不在時に対応が止まります。属人化の解消を目的に外注するのであれば、委託先の体制も必ず確認してください。
対応可能です。ただし、締め日が分かれていること自体が本社側の確認工数を増やしている場合もあるため、移行のタイミングで統一を検討する価値はあります。
なお、給与の締め日や支払日の変更は労働条件の変更にあたるため、就業規則や賃金規程の改定と、従業員への十分な説明が必要です。変更する月は給与の対象期間が一時的に短くなり、支給額が普段より少なくなることもあります。手続きと周知の設計まで含めて、現状の運用を伺ったうえでご提案します。
飲食・小売業ではよくあるご相談です。入退職の情報を都度共有いただければ、社会保険・雇用保険の手続きも含めて対応します。人数の変動が大きい業態ほど、手続きの抜け漏れリスクが高いため、外部に出すメリットは大きくなります。
その状態でご相談いただいて構いません。むしろ、給与計算の外注をきっかけに、規程と実態のズレが表面化するケースは多くあります。必要に応じて規程の見直しもあわせてご提案します。
計算ロジックが未整理の状態でもご安心ください。現在の計算結果と支給実績から逆算して整理していきます。
私たちは社会保険労務士法人・税理士法人・行政書士法人を併設する士業グループです。給与計算だけでなく、社会保険の手続き、就業規則の整備、年末調整まで窓口を分けずにご相談いただけます。
店舗ごとに運用がばらついていても、まずは今の状態のままお聞かせください。
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