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社労士の引き継ぎはどう進める?
変更前に確認する3つと、業務を止めない段取り

更新日:2026年08月25日

社労士の引き継ぎはどう進める?変更前に確認する3つと、業務を止めない段取り

「今の社労士を変えたい。でも、引き継ぎが大変そうで踏み出せない」

社労士の変更をご相談いただくとき、最後にブレーキをかけているのはたいてい料金でもサービス内容でもなく、この「引き継ぎ」への不安です。

私たちは社会保険労務士法人として、他の事務所から顧問先を引き継ぐ側の立場で、この移行を何度も経験してきました。その経験から先にお伝えすると、引き継ぎでつまずく会社と、何事もなく移行できる会社の差は、準備した資料の量ではなく「順番」と「時期」の選び方にあります。

この記事では、社労士の引き継ぎで実際に何が起きるのか、会社側は何をすればよいのか、そして私たち受け入れる側が何を巻き取れるのかを、実務の目線で整理します。

※本記事は従業員20名以上の企業を対象としています。個人の方からのご相談は対象外です。

1. 「引き継ぎが面倒」で我慢するほうが、実はリスクが高い

社労士の変更をためらう理由は、大きく2つに分かれます。

ひとつは人間関係です。「角を立てたくない」「引き継ぎで非協力的な態度をとられたら困る」という気まずさ。長くお世話になっている先生であれば恩義もあり、切り出すには勇気が要ります。

もうひとつは、業務が止まる恐怖です。「今の先生しか知らない過去の経緯」がブラックボックス化していて、移行の途中で給与計算や社会保険の手続きが止まってしまうのではないか、という不安。この2つが重なって、多くの会社が「不満はあるが、そのまま」を選んでいます。

ただ、私たちが現場で見てきた限り、待つことのリスクのほうが大きいというのが率直な見解です。

よくあるのが「年末調整が終わってから」「4月の入退社が落ち着いてから」と、キリの良い時期まで待つという判断です。気持ちはよく分かりますが、我慢している間に労務トラブルが起きると、初動を誤って致命傷になりかねません。問題社員への対応や労基署への対応は、最初の1週間の動き方で結果が変わります。「変えたい」と思った時点で動き始めるのが、実は一番安全なタイミングです。

なお、社労士の高齢化や経営環境の変化を理由に、閉業する事務所や担当者の交代を余儀なくされる企業は年々増えています。「まだ大丈夫」と思っていた会社が、ある日突然、選択の余地なく引き継ぎに直面するケースも珍しくありません。

2. 社労士の引き継ぎ全体像 ― 3ヶ月で考える

引き継ぎは、3ヶ月前から動き始めれば十分に間に合います。全体の流れは次のとおりです。

■社労士の引き継ぎ 3ヶ月スケジュール
時期やることポイント
3ヶ月前現契約の確認と、課題の整理契約書の解約予告期間を確認。今の不満と、新しい社労士に期待することを書き出す
2ヶ月前新しい社労士の選定・面談複数の事務所に相談し、引き継ぎをどこまで支援するかを必ず確認する
1ヶ月前前任の社労士へ解約の連絡、引き継ぎ開始電話で一報を入れてから書面。同時に資料・データの回収を始める
切替当月並走期間のスタート給与計算がある場合は新旧で同時に計算し、結果を突き合わせる
翌月以降新体制で本格稼働初月は月1回の打ち合わせを設定し、運用のズレを早めに潰す

順番として絶対に守っていただきたいのが、「新しい社労士を決めてから、前任の社労士に解約を伝える」という一点です。先に解約を伝えてしまうと、次が決まるまでの空白期間に入退社や労災が発生したときに動ける人がいなくなります。

そもそも変更すべきかどうかを迷っている段階であれば、社労士の対応が遅いと感じたときの判断基準で、検討すべきサインを整理しています。

3. 引き継ぎの前に、会社側で確認しておく3つのこと

「今の先生から返してもらった書類を整理してから、次の依頼をしよう」――これが一番の罠です。整理を待っている間に時間だけが過ぎていきます。

事前に確認していただきたいのは、次の3点だけです。

① 今の社労士事務所との契約の解約予告期間

顧問契約には、解約の意思をいつまでに伝える必要があるかが定められていることがあります。この期限を過ぎると自動更新に入ってしまうこともあるため、まず契約書を開いて、解約予告期間の定めがあるかどうかを確認してください。

② 給与ソフトやe-Govなどのシステム権限

見落とされがちですが、移行で最もつまずくのがここです。給与計算ソフトの管理者アカウントを前任の事務所が握っていて、自社ではログインできない。電子申請(e-Gov、マイナポータルなど)の届出をすべて代行してもらっていたため、自社に情報が残っていない。こうした状態だと、契約が切れた瞬間に過去データへアクセスできなくなります。自社でログインできるのかどうかを、解約を伝える前に確認してください。

③ 現在進行中の手続きの有無

産前産後休業・育児休業、労災の請求、助成金の申請など、途中まで進んでいる手続きがあるかどうか。これらは前任の社労士に完了まで対応してもらうのか、途中で引き継ぐのかを決める必要があります。

逆に言えば、この3点以外の準備は不要です。引き継ぎの段取りや不足書類の洗い出しは、受け入れる側の社労士が伴走します。

■引き継ぎ前に確認する3点
確認項目何を見るか見落としがちな点
① 解約予告期間顧問契約書の解約に関する条項期限を過ぎると自動更新に入ってしまうことがある
② システム権限給与ソフトの管理者アカウント、e-Gov・マイナポータルの登録情報自社でログインできるかを、解約を伝える前に確認する
③ 進行中の手続き産前産後休業・育児休業、労災の請求、助成金の申請前任が完了まで対応するか、途中で引き継ぐかを決める

4. 前任の社労士から引き継ぐ書類・データ

引き継ぎには、正直なところ相当な量の資料提供が必要になります。ただし、これを会社側がゼロから揃える必要はありません。「今あるものをそのまま出す」で構いません。

給与関係
  • 賃金台帳(労働基準法第109条により、原則5年間(当分の間3年間)の保存義務があります)
  • 扶養控除等申告書
  • 従業員情報(可能であればCSV形式)
  • 期中の給与ソフトデータ
  • 住民税の特別徴収税額決定通知書
労務関係
  • 就業規則、給与規程、その他の社内規程
  • 雇用契約書
  • 社会保険・労働保険の届出控え一式
  • 36協定などの労使協定の控え
  • 電子申請(e-Gov、マイナポータルなど)の登録情報

紙とデータ(PDF・Excel・CSV)の両方でもらえるのが理想です。特に就業規則や規程類は、WordやExcelの編集可能なデータがあると、改定のたびに作り直す手間がなくなります。

きれいに整理されている必要はありません。前任の社労士が作成した独自のExcelや、手書きのメモが残っている状態でも、そのままお見せいただければ私たちのほうで整理します。むしろ「整えてから渡そう」とすると、いつまでも移行が始まりません。

■引き継ぐ書類と、あわせて確認したい点
区分主な書類・データ補足
給与関係賃金台帳、扶養控除等申告書、従業員情報、期中の給与ソフトデータ、住民税の特別徴収税額決定通知書賃金台帳は労働基準法第109条により原則5年間(当分の間3年間)の保存義務がある
労務関係就業規則・給与規程などの社内規程、雇用契約書、社会保険・労働保険の届出控え、36協定などの労使協定規程類はWord・Excelの編集可能なデータがあると改定が楽になる
システムe-Gov、マイナポータルの登録情報、給与ソフトのアカウント契約終了後はアクセスできなくなる場合がある

5. 新旧の社労士は、直接やり取りするのか

引き継ぎのご相談でよくいただく質問が、これです。「引き継ぎの確認事項を、新しい社労士から今の社労士へ直接聞いてもらえないか」。

正直にお答えすると、私たちと前任の事務所との間には契約関係がないため、直接のやり取りは控えています。守秘義務の観点からも、間に会社が入らないまま個人情報や契約内容をやり取りするのは適切ではありません。

ただし、会社側の負担を減らす方法はあります。会社・前任の社労士・私たちの3社が合同でオンラインミーティングを設定し、その場で引き継ぎの範囲を一度に擦り合わせるというやり方です。何をどこまで前任の社労士が対応し、どこから私たちが引き取るのか。この線引きさえその場で決まれば、あとは資料の受け渡しだけになります。

会社の担当者が両者の間を何度も往復して伝言する、という一番つらいパターンを避けられるので、可能な場合はこの形をおすすめしています。

6. 引き継ぎは「業務の棚卸し」をする唯一の機会でもある

引き継ぎのとき、私たちは必ず「これまで何を委託してきたか」を丁寧にヒアリングします。そして、そのまま継続できることと、できないこと・やり方が変わることを洗い出します。

この作業をすると、かなりの確率で「実は誰も必要としていなかった月次の帳票」や「前任の先生の独自ルールで運用されていた手当」が出てきます。長年続いていると社内でも疑問に思わなくなっているのですが、引き継ぎのタイミングは、こうした業務を見直せる数少ない機会です。

引き継ぎを「面倒な作業」ではなく「業務そのものを整理する機会」と捉えていただけると、移行後の運用がかなり軽くなります。

7. 並走期間(ダブルラン)で、切り替えの事故を防ぐ

給与計算を委託している場合、切り替えのリスクヘッジとして、1〜2ヶ月は前任の社労士と新任の社労士の双方が同じ月の給与計算を行い、結果が一致するかを確認する期間を設けることをおすすめしています。

給与計算は、就業規則や過去の運用慣行が積み重なった、その会社固有のロジックで動いています。仕様書に書かれていない暗黙のルール(店舗間のヘルプ手当、特定部署だけの深夜割増の扱いなど)は、実際に計算してみて数字がズレて初めて見つかります。

並走期間で拾えていれば、社内で確認して直せば済む話です。切り替え後に本番で発覚すると、従業員への説明と再計算、場合によっては差額の追加支給が発生します。給与の支給額に不足が生じれば、結果として労働基準法第24条の全額払いの原則に反する状態になり得るため、単なる事務ミスでは済まなくなります。

「1ヶ月余分にコストがかかる」と敬遠されることもありますが、事故が起きたときの説明コストに比べれば、はるかに安い保険です。

8. 引き継ぎに向く時期・避けたい時期

給与計算を委託している場合は、年始(1月分の給与)からの切り替えが最もスムーズです。年間のデータが切り替わるタイミングなので、年の途中で分断されません。期中に切り替える場合は、前述の並走期間を長めに取ってください。

■引き継ぎに向く時期・避けたい時期
時期向き・不向き理由
1月分の給与から向く年間データの区切りと重なるため、期中で分断されない
4月避けたい入退社手続きが集中し、双方の事務所の手が塞がる
6月〜7月10日避けたい労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届が重なる
助成金の申請中避けたい要件の確認や添付書類の引き継ぎが煩雑になる
上記以外の期中条件つきで可並走期間を長めに取れば対応できる

避けたいのは、社労士側の繁忙期です。あまり知られていませんが、社会保険労務士には季節的な繁忙期があります。4月は入退社手続きが集中し、6月から7月10日にかけては労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届が重なります。この時期は前任の社労士・新任の社労士のどちらも手が塞がるため、引き継ぎの質が落ちやすくなります。

助成金を申請中の場合は、原則としてその申請が完了してからの切り替えです。申請の途中で担当が変わると、要件の確認や添付書類の引き継ぎが煩雑になり、不支給のリスクが上がります。

ただし、冒頭で述べたとおり、これらは「動き始める時期」ではなく「切り替える月」の話です。相談や選定は今日から始めて構いません。むしろ3ヶ月前から動くには、今動く必要があります。

9. 引き継ぎでよくある失敗

① 資料を回収する前に契約を終わらせてしまう 契約終了後は、前任の事務所に問い合わせる筋合いがなくなります。解約の連絡と同時に資料回収を始めてください。

■引き継ぎでよくある5つの失敗と、防ぎ方
よくある失敗防ぎ方
① 資料を回収する前に契約を終わらせてしまう解約の連絡と同時に資料回収を始める
② 解約予告期間を見落とし、自動更新されてしまう社労士を探し始めるより前に契約書を確認する
③ 自社で引き継ぎを完結させようとして頓挫する移行作業をどこまで引き受けるかで依頼先を選ぶ
④ 価格だけで乗り換え先を決める今困っていることがその事務所で解決するかを確認する
⑤ 前任の社労士への不満をそのままぶつける理由は「社内体制の見直しに伴い」で十分

② 解約予告期間を見落とし、1年自動更新されてしまう 契約書の確認は、新しい社労士を探し始めるより前でも構いません。

③ 自社で引き継ぎを完結させようとして、途中で頓挫する コスト削減のために引き継ぎを内製化しようとして止まってしまうケースをよく見ます。移行作業は本業ではないので、専任者を置けない限り必ず後回しになります。

④ 価格だけで乗り換え先を決める 「安さで選んで、また一人事務所でレスが遅い」という同じ悩みを繰り返す会社が実際にあります。今困っていることが、その事務所で解決するのかを確認してください。

⑤ 前任の社労士への不満をそのままぶつけてしまう 感情的なやり取りになると、資料の返却が遅れる、データが不完全な状態で渡されるといった形で跳ね返ってきます。

10. 前任の社労士への伝え方

電話で一報を入れてから、書面またはメールで正式に通知する。この2段階が最もトラブルになりにくい進め方です。

理由は簡潔に、前向きな表現で構いません。「社内体制の見直しに伴い」で十分です。これまでの対応への不満を並べても、引き継ぎがスムーズになることはありません。

前任の社労士へ送る通知文の例

いつも大変お世話になっております。株式会社○○の○○です。

このたび、弊社の社内体制の見直しに伴いまして、○年○月○日をもって貴事務所との顧問契約を終了させていただきたく、ご連絡申し上げます。

これまで多大なるご尽力をいただきましたこと、心より御礼申し上げます。つきましては、お預かりいただいている書類およびデータのご返却について、別途ご相談させていただければ幸いです。

引き続きのご協力を賜れますと幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます。

よくある質問

Q1. 引き継ぎにはどのくらいの期間がかかりますか

給与計算を含む場合は、並走期間を含めて1〜2ヶ月をみていただくのが目安です。相談開始から本格稼働までの全体では3ヶ月程度です。給与計算を委託しておらず、進行中の案件もなければ、より短く済みます。

Q2. 今の社労士に不満を伝えるべきでしょうか

引き継ぎを円滑に進めるという目的においては、伝える必要はありません。ただし、新しい社労士候補には具体的に伝えてください。それが解決できる相手かどうかの判断材料になります。

Q3. 書類がぐちゃぐちゃなのですが、依頼できますか

そのままお持ちください。整理をお待ちいただく必要はありません。実務の整理は私たちが伴走して行います。お願いしたいのは、社内で窓口となる担当者を1名決めていただくことだけです。

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成城大学経済学部経営学科卒業後、河合康夫税理士事務所勤務、インベストメント・バンク勤務を経て、
1998年3月 税理士登録、個人事務所開業
2002年4月 税理士法人HOP設立
2006年3月 慶応大学補佐人講座受講
2007年4月 成城大学非常勤講師
2011年12月 一般社団法人相続診断協会 代表理事就任
2020年11月 一般社団法人成長企業研究会 代表理事就任
2023年11月 著書『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』 出版
税理士・上級相続診断士・行政書士・終活カウンセラー2級。

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