コンピュータに代替される仕事の筆頭「税理士」はまだまだ多忙です

〇論文の衝撃から11年

2013年9月、英国のオックスフォード大学のM.オズボーン教授が『雇用の未来』という論文を発表し、世界的な議論を巻き起こしてから11年が経過しました。
この論文は、米国の労働市場の702の職種が、いかにコンピュータ化の影響を受けるかということを分析したものです。センセーショナルに受け止められたのは、この702の職種がコンピュータに代替される可能性がランキングで紹介されたこと、そして、今後10年か20年のうちに47%の職業がコンピュータにより自動化され、代替されるリスクがあると論じられたからです。
そして、コンピュータに代替される仕事として、簿記会計監査担当、データ入力作業員、税務申告代理者というものが挙げられていたことから、「自分の仕事もなくなるぞと言われているのか・・・」とショックを受けたものでした。
論文の発表から11年。テクノロジーを駆使して、業務の一部を自動化することができ、多くのクライアントを担当できるようになり、また相談業務に応じる時間が増えた。これがこの間最前線で業務に当たってきた私の実感です。
・預金やクレジットカードの取引履歴は自動で記帳
・経費の領収書や請求書は画像を取り込んで電子保存しつつ記帳
・税務申告書は、電子申告をして、口座振替での納税を指示
などなど。領収書に伝票番号をメモして、整然と糊付けをする。せっかく身に着けた領収書を美しく貼り付ける技術はその価値を失いました。確かに、オズボーンさんが想像されたように、簿記、データ入力、税務申告は自動化されました。しかしその一方で、税理士としての時間の使い方がより明確になり、やるべきことがシフトしてきたと言えます。

〇税理士業務の本質

かつて大前研一さんは、床屋さんのビジネスは、整髪、髭剃り、シャンプー、ヘアセット、肩たたき等のサービスの要素に分解できる。本質的業務に注力することで経営効率が上がると述べていらっしゃいました(『企業参謀』(講談社、1985))。

税理士の本質的業務は、やはり税務相談だと考えます。さらには、経営者の身近でお財布事情を熟知しているという立場上、経営相談という業務も付随してきます。これらの相談業務というのは、なかなか生成AI等でも解決できない分野でしょうから税理士の業務はなくならないわけです。オズボーンさんは先の論文の中で、創造的知性(creative intelligence-アイデアの創出)、社会的知性(social intelligence-対人関係における知性)を含む業務は、コンピュータ化の影響を受けにくいとおっしゃっていました。相談業務は、創造的知性、社会的知性をフル活用する業務でしょう。税理士業務の本質を整理することで、税理士業務はコンピュータに代替されない仕事であると証明されたと言えるのではないでしょうか。

〇税理士の未来

日本の新設法人数は、近時年間14万社台で推移しています。10年前は年間11万社であったことから、若い会社が増えていると考えられます。その一方で、現役の経営者が70歳代であり事業承継が必要な企業が245万社あると言われています。また労働力不足が深刻化していく将来も併せて考えると、記帳や税務申告業務はもちろん、経理事務の効率化を支援する業務のニーズは高まっていくでしょう。会計事務所は、テクノロジーを駆使して多くのクライアントの記帳、経理事務、税務申告をサポートする業務でその期待に応えることができると考えます。そして、小さな会社から規模を拡大していくため、又は先代からの事業を承継し軌道に乗せていくために財務や組織づくりの相談業務に伴奏するという役割もあります。税理士の仕事はまだまだなくなりそうもありません。
HOPも私も知性を磨くべく今日も精進しています。

(文責:星川望)

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