上場株式等の運用損益の最適な申告方法をシンプルに検討した事例

2021年分(令和3年分)の所得税確定申告も申告期日が迫ってきました。
今年も多くのご相談を頂いております。年に一度コミュニケーションさせて頂くお客様も多く、1年の成果をお聞きしたり、近況を伺ったり、ビジネス以外の楽しみもあるのが所得税の確定申告のやりがいの一つです。

さて、業務提携先の独立系フィナンシャルアドバイザーさんからこの時期にご紹介を受けるクライアントさんの多くが上場株式等の投資運用損益を有しておられ、税務申告の方法について、「最適な方法を助言してほしい」というご要望はたくさん頂きます。
上場株式等の運用益(譲渡や配当の所得)は、一律に所得税15%、住民税5%、合計20%が課税されます。実は、「最適な方法」の選択、これがなかなか難しいです。
・上場株式の譲渡損があった場合の損益の通算
・前年以前の譲渡損失の繰越額との運用益所得の相殺
・申告方法の選択によって、課税される税額が変わる
・申告方法によって、健康保険、介護保険料が変わる
などなど、選択する手続きによって経済的な有利不利が生じてしまうという制度の複雑さがあります。
今回はご相談を頂いた際の税理士の制度解説を見える化して、お客様の理解を促せた事例を紹介します。

検討のステップ

ご本人の課税所得の水準を確認

まず、申告所得に適用される税率を確認しましょう。
所得の合計から社会保険料控除、生命保険料控除などの所得控除額控除した残りを課税所得金額といい、この金額がいくらの水準にあるかによって適用される税率が変わります。
330万円以下の場合は、所得税率は10%(住民税は通常の申告をすると10%、分離申告という方法を取ると5%)となります。*復興特別所得税は度外視します。

加入されている健康保険を確認

厚生年金とセットに加入する協会けんぽなどは、給与の額により保険料が決定されますが、市区町村の国民健康保険、後期高齢者健康保険や介護保険は、申告された所得の額に応じて保険料が決まります。
この二つの視点で、納税者のステータスを把握することから始めます。

事例

いよいよ運用損益の申告方法を検討しましょう。
事例:中央区在住75才男性で年金受給者、老齢年金300万円。所得控除は基礎控除48万円のみ
有価証券特定口座(源泉徴収あり)での運用益が50万円
加入する健康保険は、後期高齢者医療保険

(ステップ1)課税所得の水準を確認

老齢年金300万円がメインの収入ということです。
公的年金は、収入金額から、その収入金額の大きさによって公的年金等控除額を控除した残額が所得となります。
300万円ですと、110万円が控除され、所得金額は190万円となります。
有価証券特定口座の運用益が50万円あり、所得控除が50万円ですので
通常の申告(総合課税)を選択すると課税所得は
190万円(公的年金190万+運用益50万▲所得控除50万)という水準になることが分かります。

(ステップ2)健康保険の種別の確認

健康保険は、後期高齢者ということで、所得の合計額について9%弱の料率で保険料が増加すること。また所得額の増加により、介護保険料が増加することが分かります。

(ステップ3) 最適な申告方法の検討

ここまでの情報を、下記の表に整理した課税関係等の一覧に照らして、「最適な方法」を検討します。

所得税及び住民税の合計税率をみると、総合課税の方法が良さそうです。
しかし、後期高齢者保険料が運用益50万円に対し8,72%増加し、また介護保険料は、この所得水準ですと、増加はしないことが分かりました。
これにより、「申告不要」を選択する場合の経済的負担は運用益の20%。その一方、「総合課税」を選択した場合には、運用益の18,72%が経済的負担となり、総合課税を選択した方が有利であることが分かります。
但し、総合課税、申告分離課税を選択する場合には、運用益相当分所得金額が増えることになるため、「合計所得金額」を基準して決定がされる医療費の窓口負担割合、補助金やシルバーパスなどの他の経済的利益が変わることがありますのでこの点に配慮をして、最終的な申告方法を決めます。

*現在、運用益の申告方法は所得税と住民税とで異なる申告方法を選択することが認められているが、令和4年度税制改正により、令和6年以降は所得税と住民税とで申告方式が一致するように見直される予定です。

有価証券の運用損益についての申告方法は、上記に見てきた通り複雑です。経済的な負担に差異が生じることから、慎重な判断が求められますが、上記のステップで、申告方法の選択による影響を検討していくことで、納税者の理解を得ながら最適な方法を検討できました。

(文責:星川 望)

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2022年2月25日

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