初めてお給料をもらった時のことを覚えていますか?私は高校生のとき家の近くのパン屋(埼玉県)でアルバイト社員として雇われ、生まれて初めて労働者となり、給与を得ました。10代の好奇心から学校で禁止されていたアルバイトをしてみたかっただけで、当時は雇用契約書だの年少者だの知りもしませんでしたが、今でもはっきり覚えているのはその時給です。800円でした。
働くのが初めてとはいえ、高校生にも金銭的な感覚はあります。1時間働いてマクドナルドでお昼が2回食べられるか食べられないかくらい。いつも読んでいるJJ(若い女の子向けのファッション雑誌)を買ってお釣りがくるくらい。そう考えると、特別高いとも低いとも感じませんでした。私は時給800円の仕事に満足して働きました。
大学に進学し堂々とアルバイトができるようになると、時給の高い都内で働きました。大学4年で経験した最後のアルバイトの時給は1,000円。特急電車の車内販売だったのですが、移動が伴う仕事だからか他のアルバイトと比べて時給が若干高いと感じたのを覚えています。
時は流れ、令和の時代も3年目になりました。現在の東京都の最低賃金は1,013円です。大学生だった私が「高い」と感じた時給1,000円では、もう東京で人を雇うことはできません。
最低賃金は毎年見直しがあり、10月1日から新たな最低賃金が適用されます。令和3年10月1日からの東京都の最低賃金は、現在よりも28円高い1,041円で決定されています。皆さんはこれを高いと感じるでしょうか、それとも低いと感じるでしょうか。
政府はデフレ脱却に向け、賃上げを目指しています。他の先進国と比べ賃金や物価が低くなってしまっている現在の日本が諸外国に追いつき追い越すために、最低賃金は上昇させていかなければなりません。
しかし、中小企業経営者の立場に立つと、時給1,041円のクリアが簡単なことではないことに気が付きます。厳しくなる一方の労働法を守り、税金や増加する社会保障費も負担しなければいけない中、コロナ禍でどう利益を生み出し従業員に還元できるか、経営者は常に頭を悩ませています。
賃金は「雇用主に上げてもらうもの」ですが、労働者も受け身でいるだけではいけないと思っています。現状に甘んじることなく、職業人としての自分の値段を上げていかなければなりません。労使が力を合わせることで、会社や世の中全体がより良くなるはずです。10年後、令和3年の最低賃金1,041円が「安い」と感じる世の中になっているのか、あまり変わることなく1,050円くらいに落ち着いているのか…どんな世の中になるのか想像しながら毎日頑張って働きたいと思います。
(文責:植松 沙和子)